恋人同士の理想的な関係といえば「お互いに支え合えること」と思う人が多いでしょう。
仕事で落ち込んだとき、人間関係の悩みがあるとき、または風邪をひいて寝込んでいるときなど頼れる相手がいると精神的に安心するものです。
しかし、あなたが彼氏に頼ることがあっても、彼氏のほうは頼ってこないというケースもあります。
このようなとき、「愛されていないの?」「信頼されていないの?」と不安になるかもしれません。付き合っている期間が長ければ余計にそうでしょう。
しかし、彼氏が頼ってくれないのは愛情がないからではありません。
そこには恋愛関係に対する価値観や、アンビバレンス(相反する2つの感情)が存在しています。
約1割の人は恋人に頼ろうとしない
恋人に頼らない人の心理を分析した、スウェーデンのヨーテボリ大学のチームによる調査があります。
この調査では100人以上の男女に「愛情や支援を必要とするときに誰に頼るか?」を調べるための「WHOTO」という質問票に回答してもらいました。
具体的には「不安や動揺を感じたときに頼る人物」や「離れているときに寂しさを感じる人物」などを答えてもらうというものです。
これらの回答を分析したところ、多くの人は困ったときに恋人を頼ることが分かりました。しかし、約1割の人はそうではありませんでした。
恋人に頼らない人の心理的な特徴
研究チームは恋人に頼らないという12人に直接インタビューを行い、その心理について確かめました。
その結果、彼らの多くには以下の共通する心理が見られました。
1.恋愛関係での自立
恋人に頼らない人の多くは「恋愛は幸福の条件ではない」と語っており、恋人がいなくても自分は十分にやっていけると感じていました。
恋愛は「依存」ではなく「選択」であり、あくまで個人の主体性の上に成り立つものという意識が強いのです。
彼らにとって最も重要なことは自由を保てることであり、恋人の存在がその自由を制限する場合、恋愛関係に意味を見いだしにくくなります。
また、困難や不安を感じたときにも、恋人に頼るより自分で対処しようとする傾向があり、この自己充足的な姿勢、支援や愛情を受け取ることへの抵抗として表れていました。
2.恋愛に対するアンビバレンス
彼らも恋愛に無関心というわけではありません。恋人とのつながりの価値を認めている人も多くいました。
しかし、それと同時に深く関わりすぎることへの不安という相反する感情(アンビバレンス)を抱いていました。
信頼や愛情を求める気持ちと、それによって自分の独立性が脅かされる恐れとの間で葛藤しているのです。
そのため、関係が良好でも「自分が相手に依存してしまうのではないか」という懸念を抱き、結果として距離を保ちながら関係を維持するという複雑なバランスをとっているのです。
3.恋愛に関する社会規範への不同意
恋愛や結婚にまつわる社会規範に対する批判的な姿勢も際立っていました。
「一定の年齢になれば結婚して家庭を持つべき」といった価値観に強い反発を覚える人が多く、恋愛を人生の必須要素とする社会的期待そのものに違和感を示していました。
彼らは、恋愛をしないことや一人でいることも十分に価値ある生き方だと感じていました。
4.恋愛関係についてあまり考えない
恋愛やパートナーシップについて深く考えたことがないとも答えています。
「流れに任せて生きている」と表現している人もいました。
恋愛を人生の中心とは見なさず、特別な意味づけも行わない姿勢を持っているのです。
この無関心さは精神的な安定をもたらすこともありますが、パートナーが関係を重視する場合には「無関心」と受け取られ、摩擦を生むこともあります。
恋愛を自己理解の核心に置かず、内省を避ける傾向が彼らの共通点として浮かび上がりました。
家族は作りたいと思っている
恋人に頼らない人との関係が発展しないのかといったら、必ずしもそうではありません。
恋愛関係を「家庭を築くための前提」と考える人も多かったのです。
今回のインタビューでは子供や家族に関する質問はされませんでしたが、多くの参加者が自分からこの話題を持ち出しました。
彼らにとって、恋愛の価値は「生活上の安定」や「家族の形成」に置かれていたのです。
さらに、子どもができた際には「その後も関係を維持するべき」と考える傾向もあり、恋愛関係を長期の社会的責任として認識している側面も見られました。
こういった側面から考えると、恋愛感情だけで突っ走る人よりは、安定した関係が築きやすいといえるのかもしれません。
頼ってくれない彼氏との付き合い方
彼氏があなたに頼ってくれないと、「私に心を開いていないのかも」と感じてしまうかもしれません。
しかし、そのように解釈する前に「頼らない」という行動の裏にある心理を理解することが大切です。
一番避けたいのは、「もっと話して」「どうして頼ってくれないの」と追い詰めてしまうことです。
彼氏が心の扉を閉ざす背景には、不安や恥、あるいは「負担をかけたくない」という思いやりが隠れていることも多いのです。
相手の沈黙を否定せず、「話したくなったらいつでも聞くよ」と伝えておくことで、彼氏は少しずつ安心感を覚えます。
人は「安全な場だ」と感じたときに初めて心を開けるものです。
また、彼氏があなたに対して安心感を覚えていたとしても、ここまで説明してきた恋愛関係に対する価値観が強い場合には、頼らないことが通常モードということもあります。
「彼には彼のペースがある」と受け止めることが大切です。
自分の側の心のケアも大切
頼ってもらえないと「自分は必要とされていないのでは」と不安になることがあります。その気持ちはとても自然です。
相手を理解しようとする過程で、自分が消耗してしまうこともあるでしょう。
こうならないために、自分の感情にも丁寧に向き合うことが大切です。
そして、安心できる支え(友人、趣味、家族など)を持っておくことで、気持ちのバランスを保ちやすくなります。
「彼に頼られない=愛されていない」と短絡的に考えないようにしてください。
参考文献:Jardmo C, Frisen A, Wangqvist M. (2023). Experiences of romantic relationships among early adults who do not turn to their long-term partner when in need of love and support.