警視庁の「配偶者からの暴力相談等受理状況」を見ると令和3年の相談件数は8011件(被害者男女比19:81)となっています。
これは東京都内で結婚または同棲をしている人たちに限った数字ですから恋人関係も含めればさらに多くの暴力被害が発生しています。
私のところでも暴力を振るう彼氏と別れることが出来ないという相談に来る女性は増えています。
彼氏が別れさせてくれないとか別れた後にストーカー化してしまうのが怖いというよりも、自分自身が別れたくないと思っている女性が多いのです。
暴力を振るうような彼氏と一緒にいても幸せになれないとは分かっているけれど別れる踏ん切りがつかないのでどうしたら良いかという相談にやって来るのです。
暴力を振るう彼氏と別れられない女性の心理過程として多いのは暴力を振るったあとに優しさを見せられて本当は悪い人じゃないんだと思ってしまうというものです。
穏やかな人が優しくするよりも、暴力的な人が優しくするほうが感情の触れ幅が大きくなりますからより印象づけられます。
やがて彼氏が怒って暴力を振るうのは自分が悪いからだと思い始めたり、彼氏を立ち直らせるのは自分しかいないと思い込みそこに生きがいを見出してしまいます。共依存状態になってしまうのです。
健全な自己肯定感を育むことができずに自分に自信を持てない女性にこのパターンが多いのです。DV彼氏の世話をすることで自分自身の問題から目を背けることが出来るからです。
しかしこの心理に当てはまらない人もいます。恋愛カウンセリング中に上記のような説明をして「自分に当てはまるところはありますか?」と聞いても「全く当てはまりません」という女性も少なくありません。
このタイプの女性がDV彼氏と別れられない原因としてホルモンの影響と脳の勘違いが考えられます。また自分でも気づかないうちに彼氏の恐怖に快感を覚えている可能性もあります。
暴力を振るわれるときに分泌されるβ-エンドルフィンは脳内麻薬
人間は食べたり性行為をしたりという本能に関連する欲求を満たされたときにβ-エンドルフィンというホルモンが分泌されます。
このβ-エンドルフィンには多幸感をもたらす作用があります。
β-エンドルフィンはストレスや苦痛を感じたときにも分泌され精神的負担の解消や身体的な苦痛を緩和する作用があります。
モルヒネと同じ効果があるとされ脳内麻薬と呼ばれることもあります。自傷行為を繰り返してしまう人はこの作用の虜になってしまっているという説もあります。
彼氏から暴力を振るわれたときもβ-エンドルフィンは分泌されます。
暴力を振るわれても別れることが出来ない人というのはこの作用に依存してしまっているのかもしれません。
暴力を振るわれても依存する人としない人がいるのはβ-エンドルフィンの作用の仕方に個人差があるからかもしれません。影響を大きく受ける人が依存しやすくなる可能性があります。
そのほかにも暴力を受けたときには様々なホルモンの影響を受けますからそれらによって冷静な判断力を失っていることも考えられます。
「別れないということは私は暴力が嫌ではない」と自分を納得させようとする
アメリカの社会心理学者レオン・フェスティンガーは人間は感情その他の事象に関する知識の間に不一致がない状態(協和状態)を求めるとしました。
これらが不一致な状態になると緊張や不快な状態(認知的不協和)を生じさせるので人間はそれを解消しようとします。
感情と行動が矛盾する場合はそのどちらかを変えることで認知的不協和を解消しようとします。必ずしも行動を変えるわけではないということに注意してください。
例えば暴力を振るわれることに対し嫌だと思っていたとします。しかし彼氏と別れずに一緒にいるということは感情と行動に矛盾が生じている状態です。
この状態というのは不快な状態ですから矛盾を解消して不一致がない状態にしようとします。
このときに行動を変えるという選択をせずに感情を変えるという選択をすることがあるのです。
つまり別れるのではなく「暴力は嫌」という感情のほうを変えてしまうということです。
「暴力を振るわれても彼氏と一緒にいるということは私はそれほど暴力が嫌ではないのだ」という考えに持っていこうとしてしまうのです。
一度この方向に感情を持っていってしまうと中々別れることは出来ません。
恐怖と快感
自分でも気づかないうちに彼氏の恐怖が快感になっている可能性もあります。
お化け屋敷やホラー映画がビジネスとして成り立つのを考えれば分かることですが人間というのは自ら恐怖を求めることがあるのです。
なぜ恐怖を求めるかというと1つはその恐怖が去った後の安心が快感になっているという可能性が考えられます。
彼氏から激しい暴力を受けているときは恐怖を感じますが止むとホッと安心します。このとき脳は快感を覚えていると言われています。
暗い夜道を抜けて自宅に着くとホッと安心しますがそれと同じです。
別の考え方としては脳が恐怖と快感を同時に感じているというものもあります。
恐怖を処理する部位と快感を処理する部位は重なる部分が多いのではないかといわれているのです。
これは被虐性向を持つ女性が通常の性行為よりも暴力や精神的な陵辱を伴う性行為のほうが興奮することなどとも関連しているのではないかと個人的には思っています。
どんな理由にせよ暴力を振るう彼氏と別れられないというのは別の興奮を好きという感情と勘違いしている錯誤帰属が生じているケースが多いです。
自分の感情とじっくり向き合うことで勘違いに気づくことが出来ます。