彼氏のことは好きだけど、一緒にいると疲れてしまったり、会話の中で微妙なズレを感じたりしてしまう、という人もいます。
このような感覚を抱えたとき、多くの人は「相性が合わないのかも」「価値観が違いすぎるのかも」と考えます。
そして、もっと我慢すべきなのか、相手に変わってもらうべきなのか、と解決の糸口が見つからずに悩み続けてしまいます。
しかし、最近の心理学研究では、こうした「合わなさ」の感覚は、性格や価値観ではなく、もっと見えにくい「意志力に対する考え方」が関係していることが示されています。
恋愛関係に影響する「意志力に対する考え方」とは
意志力とは、「やるべきことをやる力」や「やりたいけど我慢する力」のことです。心のエネルギーのようなものです。
たとえば、寝不足の朝に起きて仕事に向かう、ダイエット中にお菓子を我慢する、忙しくても恋人の話に耳を傾ける——こうした行動の背景には、意志力があります。
そして、これが最も重要なことなのですが、意志力に対する考え方は、人によって異なるものなのです。
心理学の研究では、この考え方は大きく分けて二つのタイプがあるとされています。
ひとつは「意志力は限りあるもの」と考えるタイプです。このタイプの人は、がんばることや我慢することによってエネルギーが消耗すると感じており、「もう無理」「これ以上は頑張れない」と思いやすい傾向があります。
もうひとつは「意志力は減らない」「使えばむしろ強くなる」と考えるタイプです。このタイプの人は、疲れを感じても「まだできる」「自分は頑張り続けられる」と感じやすく、目の前の課題や人間関係にも粘り強く対応できる傾向があります。
どちらの考え方が正しいというわけではなく、これはあくまで「信念」や「思い込み」の違いです。
しかしこの違いが、日常生活や人間関係にじわじわと影響を与えていることが、最近の研究で明らかになっています。
特に恋愛関係では、相手に気を遣ったり支えたりする場面が多いため、意志力に対する考え方の違いが「すれ違い」や「合わなさ」として表れやすくなるのです。
745組のカップルを対象とした調査
意志力に対する考え方が、カップル間の関係にどんな影響を与えるのか検証した、フレイザー・バレー大学などの研究チームによる調査があります。
この調査では、745組のカップルに2週間にわたり、毎日以下のアンケートに回答してもらいました。
- 恋人に感情的な支援(例:慰めや共感)や実用的な支援(例:家事や手伝い)を提供したか
- 自分が感情的な支援や実用的な支援を恋人から受けたか
- 恋人との関係にどれくらい満足しているか
最終日には、「意志力に対する考え方」を測定するための質問票にも回答してもらいました。
自分の意志力だけが関係満足度に影響する
得られたデータをもとに分析したところ、「意志力は限られている」と信じている人ほど、恋人に対して感情的支援も実用的支援も提供する頻度が少ないことがわかりました。
この傾向は、提供者の自己申告だけでなく、パートナー側からの報告でも明らかになっています。
さらに、「意志力が限られている」と信じている人は、自分自身の関係満足度も低めでした。
一方で、パートナーが、「意志力が限られている」と信じているかどうかは、自分自身の関係満足度にそれほど大きく影響しないことも分かりました。
また、カップル間の意志力に対する考え方が似ているかどうかも、関係満足度には影響していませんでした。
つまり、「自分が意志力についてどう考えているか」が、日々の行動や満足度に強く関係しているということになります。
なぜ「意志力は有限」と考えると恋人関係に満足できないのか?
なぜ、自分の意志力には限界があると感じている人ほど、恋人関係に満足できないのでしょうか?
その理由のひとつは、「がんばりどころ」で踏ん張る力が湧きにくくなるからです。
たとえば、恋人とすれ違ったとき、疲れていたり気分が乗らなかったりしても、少し頑張って話を聞いたり気遣ったりすることで、関係が改善される場面はよくあります。
しかし、「意志力は使うと減るもの」「疲れているときは無理しない方がいい」と強く信じている人は、そのような行動をする余裕がありません。
すると、相手に寄り添う行動や、自分から関係を修復しようとする努力が減り、関係そのものがギクシャクしていきます。
その結果、「うまくいかない」「相手と合わない」という気持ちが強まり、自分自身の関係への満足度が下がってしまうのです。
意志力と恋愛における自己否定の関係
また、意志力が限られていると思っている人は、日常の中で「私はもう頑張れない」「これ以上は無理」と感じやすく、恋愛関係のなかで起こるストレスや衝突をより重く受け止めがちです。
そうなると、ちょっとしたすれ違いや我慢が、大きな負担に感じられ、関係を前向きに捉えることが難しくなります。
さらに、意志力が足りないと感じると、「私の我慢が足りないせいで関係が悪化しているのでは?」という自己否定の気持ちにもつながりやすくなります。
こうした感情が積み重なると、相手に対する不満だけでなく、自分に対する不安やモヤモヤも増え、関係全体への満足度が下がってしまうのです。
このように、「意志力には限界がある」という考え方は、直接的にも間接的にも、自分の恋人関係に対する満足感を下げる要因となり得ます。
彼氏と合わないと感じている人へ
ここまで説明したように、「意志力はすぐに尽きる」と考えている人は、恋人に対して支援や思いやりの行動をする頻度が少なくなり、結果として自分自身の恋愛の満足度も下がる傾向があるのです。
つまり、「もう疲れているし無理」と感じやすい人は、その思い込みが原因でパートナーとの関係が悪化してしまっている可能性があるということです。
ですので、もし「彼氏と合わない」と悩んでいるなら、まずは「自分はどんなときに、どんなふうに頑張る気力を感じるのか?」を見つめ直してみてください。
「自分は疲れたら何もできなくなると思い込んでいないか?」と考える習慣を持つだけでも、行動は変わっていきます。
また、自分だけでなく、彼氏の意志力に対する考え方を尊重することも大切です。
たとえば、あなたが「どんなに疲れていても支え合うのが当たり前」と思っていても、彼は「疲れたら無理をしないのが自然」と感じているかもしれません。
このズレに気づかないままでは、お互いに「分かってくれない」と感じてしまいやすくなります。
彼氏に「どういうときに気持ちがすり減るのか」「どんな場面なら支え合いやすいのか」を聞いてみることも有効です。
意志力の感覚は人それぞれであり、正解があるわけではありません。
相手の感じ方に目を向けることで、「合わない」ではなく「違うだけ」と思えるようになれば、関係はぐっと楽になります。
参考文献:Francis, Z., Weidmann, R., Bühler, J. L., Burriss, R. P., Wünsche, J., Grob, A., & Job, V. (2024). My willpower belief and yours: Investigating dyadic associations between willpower beliefs, social support, and relationship satisfaction in couples.