男性はなぜ「自分に好意がある」と勘違いするのか?(性的過大知覚バイアス)

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異性の言葉や行動を見て「自分のことが好きなんだ」と勘違いすることが多いのは男性です。

女性の場合は相手が本当に好意を持っていたとしてもなかなか確信できないことがあります。

この原因は男女の本能に関係していると考えることができます。

女性を見たときに自分に好意があると勘違いしたほうが男性の生存戦略としては有利なのです。

男性に起こりやすい性的過大知覚バイアス

相手からは何とも思われていないのに「あの子は自分のことが好きだ」と勘違いしてしまうことを性的過大知覚バイアス(※1)と言います。

これは女性よりも男性に顕著に現れるということを多くの人が体験によって知っていると思います。

職場や学校で笑顔で話しかけられたりボディタッチされたとき……

お店の店員さんがお釣りを渡すときに手に触れたとき……

こういったシチュエーションで勘違いするのは男性が多いです。

相手の女性が他の人にも同じ態度を取っているのが目に入っても「自分に向けられた視線だけは特別なもの」とポジティブに受け止めます。

アメリカのスーパーマーケットチェーンが「お客さんに笑顔を振りまこう!」というキャンペーンを行ったら勘違い男が続出して女性店員が店を訴えたという事件もありました。

男性が勘違いしやすい生き物だということは実験でも確かめられています。

社会心理学者のアントニア・アビー博士は男女が会話しているシーンをモニタリングさせる実験を行いました。

この実験で男性の観察者は女性が性的な誘惑をしているように見えたと答えました。

女性はそのようには見えなかったと答えました。

ちなみに会話をしていた当人たちに関してですが男性は相手の女性に対して性的魅力を感じましたが、女性のほうは感じませんでした。

男女が1対1でいる場面を見たときに男性はそこに性的な印象を持ちやすいということが分かります。

自分のパートナーが他の異性と2人でいるところを見たときに浮気だと疑いやすいのも男性と言われています。

「好きじゃないのに勘違いされた」という体験は女性が多く持つ

「好きじゃないのに勘違いされた」という経験を持つ人もいるでしょう。反対のパターンもあるかもしれません。

これについて面白い研究があります。

進化心理学者のマーティーG.ヘゼルトン博士は大学生に性的過大知覚バイアスを調べるための質問をしました。

大雑把にいうと以下のような質問です。

  • 好きじゃないのに好きだと勘違いされたことはありますか?
  • 好きなのに好きじゃないと勘違いされたことはありますか?

回答の傾向は男女で分かれました。

男性はどちらの質問に対する回答の数値も同程度のものでした。

しかし女性は「好きじゃないのに好きだと勘違いされたことはありますか?」という質問への回答の数値の方が有意に高かったのです。

なぜ「男は勘違いしやすい生き物」と言えるのか?

そもそもなぜ男性は女性のちょっとした態度を見て「自分のことが好きなのだ」と勘違いするのでしょうか?

興味深い説としてはリスクの大きさから説明したものがあります。

恋愛における勘違いには2つのパターンがあります。

1つは先ほどまで説明した「自分のことが好きなんだ」と勘違いする性的過大知覚バイアスです。

もう1つは相手が好意を持ってくれているのにも関わらず「好きではないのだと」勘違いする性的過少知覚バイアスです。

男性が性的過大知覚バイアスによって自分に好意を持っていない女性にアタックしたらどうなるでしょうか?

振られてしまう可能性が高いでしょう。強引に迫って殴られるかもしれません。

場合によっては「勘違い男」のレッテルを貼られ周囲から笑われてしまうかもしれません。これらは全てリスクと言えます。

では仮に男性の性的過少知覚バイアスが優位だった場合はどうなるでしょうか?

自分のことを好きになってくれた女性を見逃してしまうことになり勿体無い気もしますが傷つく心配はなさそうです。

しかしここに大きなリスクがあります。

性交できたかもしれない女性を逃すということは子孫繁栄のチャンスを失ったということです。

これは子孫を残したいという本能を持つ人間にとって大きなリスクです。

つまり振られて傷つくリスクと子孫繁栄のチャンスを失うリスクを比べたときに後者のほうが圧倒的に大きいため男性は性的過大知覚バイアスが優位なのではないかと考えることができます。

どんな小さな可能性も失いたくない男性

ここで疑問が沸くかもしれません。

偏りのない冷静な判断力を進化させたほうが良かったのではないか?という疑問です。

自分のことを好きな人だけ見抜ける力を身につけるべきでは?ということです。

確かにそれが最も合理的に思えます。

しかしそれだと1つのチャンスを失うことになります。

それは「あなたのことは好きじゃないけれど告白してくれたから付き合ってみようかしら?」と思ってくれる女性と性交するチャンスです。

これも子孫繁栄の機会を失うという大きなリスクです。

そのためどんな小さな可能性であっても下手な判断を下して失ってしまうよりかは、全ての可能性に賭けたほうが良いということで「自分に好意がある」と勘違いするようになっていると考えられます。

「クジ引きをするなら箱ごと買ってしまえ」という感覚が近いのかもしれません。

なぜ女性は「私のこと好きかも」という勘違いをしないのか?

子孫を残したいという本能は女性にもあります。

ということは女性も男性同様に性的過大知覚バイアスが起こり勘違いをするのでは?と思うかもしれません。

しかし女性の場合は異性のちょっとした態度を見て「この人は私のことが好きなんだわ」と思うことは多くありません。

それどころか自分に好意を持っている男性でさえ「好きじゃないんだわ」とネガティブに考えてしまうことさえあります。

なぜ男女でこのような違いが生まれるかというと子孫を残すためのコストに差があるからです。

男性の場合、身体的な特徴だけを考えると性交し妊娠させることができれば後は放っておいても自分の子孫を残すことが出来ます。

また同時に複数の女性に自分の遺伝子を預けることも可能です。

つまり子孫を残すために支払うコストは少ないのです。

女性選びにミスしても大きな問題ではありませんから慎重に選ぶ必要もありません。

「性交のチャンスかも」と思ったらどんどん行ったほうが効率的です。(※あくまで本能のみで考えた場合の話です)

これとは反対に女性の場合は妊娠したら他の遺伝子を受け入れることは出来ません。一生のうちで産める子供の数にも限りがあります。

自分を妊娠させた男性が裏切ってどこかへ行ってしまうと、自分と子供の生存の危機にもなります。

そのためパートナーを慎重に選ぶ必要があるので、勘違いが起こりにくくなっているのです。

男性は暴走しないように、女性は消極的になりすぎないように

色々と説明してきましたが性的過大知覚バイアスが起こる原因ははっきりと確定されていません。

ここで書いた以外にも性欲が過剰なためちょっとした刺激でもスイッチが入ってしまうとか、どちらかの性が積極的でないと種が絶滅してしまうためそのメカニズムを持ったのがたまたま男性だったからなど色々な理由が考えられています。

しかし女性よりも男性のほうが自分に好意があると勘違いしやすい傾向を持っているのは事実です。

男性は暴走しないように、女性は消極的になりすぎないようにしたほうが上手く恋愛を進めていけるかもしれません。

※1:英語で「sexual overperception bias」と書きます。適切な日本語がなかったので私が勝手に「性的過大知覚バイアス」と訳しました。「性的過少知覚バイアス」も同様です。

【参考文献】
Abbey.Antonia「Sex differences in attributions for friendly behavior: Do males misperceive females’ friendliness?」
Martie G.Haselton「The sexual overperception bias: Evidence of a systematic bias in men from a survey of naturally occurring events」
John Alcock『Animal Behavior: An Evolutionary Approach』